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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)5776号 判決 2000年3月23日

原告

岩西隆吉

ほか二名

被告

木村圭宏

主文

一  被告は、原告岩西隆吉及び同岩西千代子に対し、各金二七一五万七六七五円及び内金二六三〇万六九九一円に対する平成九年一二月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、同岩西幸子に対し、金一一〇万円及びこれに対する平成九年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告岩西隆吉及び同岩西千代子に対し、各金八七一三万九七五四円及び内金八六二八万九〇七〇円に対する平成九年一二月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、同岩西幸子に対し、金二二〇万円及びこれに対する平成九年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の普通乗用自動車と岩西隆明(以下「隆明」という。)運転の自動二輪車とが衝突して隆明が死亡した事故につき、同人の親族である原告らが、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)

1  事故の発生

左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

日時 平成九年一二月一九日午前一一時五〇分頃

場所 大阪府豊中市北条町四丁目一一番先路上(以下「本件事故現場」という。)

事故車両一 普通乗用自動車(奈良五八る一八〇六)(以下「被告車両」という。)

右運転者 被告

事故車両二 普通自動二輪車(一大阪ね七二四七)(以下「隆明車両」という。)

右運転者 隆明

態様 被告は、本件事故現場を通る東西道路を西から東に向かって走行してきた隆明車両に対し、駐車禁止の道路上の東行車線の左端に停車していた被告車両を発進させ、Uターンして西行車線に入ろうとして、被告車両を隆明車両に衝突させた。

2  隆明の死亡及び原告らの身分関係(甲二、四)

(一) 隆明は、本件事故により、平成九年一二月一九日、死亡した。

(二) 隆明の死亡当時、原告岩西隆吉(以下「原告隆吉」という。)はその父、同岩西千代子(以下「原告千代子」という。)はその母、同岩西幸子(以下「原告幸子」という。)はその妹であった。

3  損害の填補

原告隆吉及び同千代子は、本件事故に関し、平成一一年二月五日、自賠責保険から、三〇〇一万四七六〇円の支払を受けた(甲二〇)。

二  争点

1  本件事故の態様(被告の過失、隆明の過失)

(原告らの主張)

本件事故現場は、そのすぐ東側が、高架道路とその両側道とに分かれているため、事故地点は西行車線の高架から来た車両とその南側の側道から来た車両とがちょうど合流する危険な地点であり、しかも、被告がUターンした地点からは、高架道路に視線を遮られて、南側の側道から西行車線に入ってくる車両の見通しが悪い状況にある。したがって、このような地点でUターンする際には、西行車線の高架から来る車両のみならずその南側の側道から来る車両の有無も常視しなければならず、東行車線の後方から来る車両に眼がいかないから、Uターンには極めて危険な地点である。

被告は、本件事故現場を通る東西道路の東行車線の左端に停車していた被告車両を発進させ、Uターンして西行車線に入ろうとするにあたり、前方の反対車線(西行車線)の交通の安全に注意するだけでなく、自車線(東行車線)の右後方から来る車両の運行に十分注意し、右後方の安全を確認した上でUターンすべき注意義務があるにもかかわらず、その確認を全くせずに反対車線の車両の動静のみに気を奪われ、漫然と方向指示器も出さずにUターンした過失により、折から東行車線を進行してきた隆明車両に気づかず、隆明車両に被告車両の右側部を衝突させた。

(被告の主張)

本件は、転回中の被告車両と直進中の隆明車両との衝突事故である。被告は、本件事故現場でUターンするためにゆっくりとした速度で発進し、方向指示器を点けるとともに右後方の安全を確認しており、その際、隆明車両は相当後方を走行していたため、十分Uターンできると判断してUターンを開始したものである。しかるに、隆明車両が、Uターン中であった被告車両に注意を払うこともなく、漫然と制限速度(時速四〇キロメートル)を大幅に超える時速一〇〇キロメートル近い速度で直進し、被告車両の右側部に衝突したものであり、本件事故については隆明にも相当な過失があり、大幅な過失相殺が行われるべきである。また、被告は、転回にあたり方向指示器の合図を出している。

2  損害額

(原告らの主張)

原告隆吉、原告千代子は、次の(一)及び(二)の損害を各二分の一の割合(合計で各八六七一万一三三七円)で相続し、次の(三)ないし(七)の損害を二分の一ずつ(合計で各一五七万七七三三円)負担し、(九)を二分の一ずつ(各八五万〇六八四円)取得した。また、原告らの固有の慰謝料は、次の(八)のとおりであり、弁護士費用は、次の(一〇)のとおりである。

(一) 隆明の逸失利益 一億四三四二万二六七五円

(1) 大学卒業後の逸失利益

隆明は、本件事故当時、二一歳の男子であり、関西大学工学部電子工学科の三回生であった。

よって、大学卒業後の逸失利益は次のとおりとなる。

基礎収入(年額) 六八七万七四〇〇円(平成九年賃金センサス産業計・企業規模計・大卒男子労働者(全年齢平均))

生活費控除率 四〇パーセント

就労可能期間 二三歳から六七歳まで

中間利息 年一パーセント

ライプニッツ係数 三六・七二七マイナス一・九七〇

(計算式)6,877,400×(1-0.4)×(36.727-1.970)=143,422,675(一円未満切捨て)

(2) アルバイトの逸失利益

隆明は、本件事故当時、アルバイトに従事し、一か月九万九九〇五円の収入を得ていたところ、本件事故に遭わなければ、卒業までの一年三か月間同様に働くことができた。

よって、アルバイトの逸失利益は次のとおりとなる。

(計算式)99,905×(1-0.4)×15=899,145

なお、右(1)につき、中間利息を年一パーセントで計算する場合には、アルバイトの逸失利益は請求しない。

(二) 隆明の死亡慰謝料 三〇〇〇万円

(三) 文書料 一万四二五〇円

(四) 入院雑費 三〇〇〇円

(五) 通院交通費 二万一七八〇円

(六) 葬儀関係費 二四六万五二八六円

(七) 物損(隆明車両) 六五万一一五〇円

(八) 原告ら固有の慰謝料

(1) 原告隆吉 八〇〇万円

(2) 原告千代子 八〇〇万円

(3) 原告幸子 二〇〇万円

(九) 自賠責保険金についての確定遅延損害金 一七〇万一三六九円

自賠責保険金(三〇〇〇万円)が支払われるまでの本件事故日である平成九年一二月一九日から支払日である平成一一年二月五日まで(四一四日間)年五分の割合による遅延損害金

(一〇) 弁護士費用

(1) 原告隆告 五〇〇万円

(2) 原告千代子 五〇〇万円

(3) 原告幸子 二〇万円

(被告の主張)

不知。

逸失利益、慰謝料、葬儀関係費、物損(隆明車両)は、いずれも過大な請求である。また、学生のアルバイトは必ずしも確実性・継続性のあるものではない。

第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)

一  争点1について(本件事故の態様)

1  前記争いのない事実、証拠(甲五ないし一三、二一1ないし11、二二1ないし4、二三1ないし3、二四1、2、二五1ないし3、二六1、2、二七1ないし5、二八1、2、二九1、2、三〇1ないし5、三一、三五、四四、四六、乙一、二、証人金二鳳、原告隆吉本人、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場は、大阪府豊中市北条町四丁目一一番先路上であり、その付近の概況は別紙図面記載のとおりである。本件事故現場を通る道路は、東西方向にほぼ直線的に走る道路(以下「本件道路」という。)であり、制限速度は時速四〇キロメートルに規制されていた。本件事故現場のすぐ東側は、高架道路とその両側道(同図面中に「一方通行」と表示されているもの)とに分かれ、高架道路と側道との間にはコンクリート製の分離帯(同図面中に「分離帯」と表示されているもの)が設置されている。そのため、被告がUターンしようとしていた地点(後記)からは、高架道路及び分離帯に視線を遮られて、南側の西行側道から西行車線に入ってくる車両の有無ないしその動静を確認することは非常に困難な状況にあり、Uターンしようとすれば、高架道路の西行車線から来る車両や西行側道から来る車両の有無及びその動静を確認するために眼が離せず、他の方向に対する注意がおろそかにならざるを得ない状況にある(そのため、本件事故現場の付近でUターンしようとする者のほとんどは、さらに東行の側道を進んで高架下をくぐって西行の側道に出るという方法を採っている。)。

被告は、平成九年一二月一九日午前一一時五〇分頃、勤務先である株式会社イーストジャパン前の別紙図面<1>地点に停車していた(なお、本件事故現場付近は駐車禁止であるが、被告は、勤務先が道路沿いにあるため、普段から度々その付近に停車していた。)被告車両に乗り込み、西方向に行くためUターンしようとし、同図面<2>地点付近で後方を確認したところ、同図面<ア>地点を走行中の車両を確認したが、そのままUターンできると思い、方向指示器を点けることなく、同図面<3>地点付近でハンドルを右に切り始め、西行側道(同図面中に<甲>と表示されているもの)を見ながら時速一〇キロメートル程度の速度で進み、同図面<4>地点に達したとき、同図面<イ>地点を時速七〇キロメートル程度で走行中の隆明車両を発見し(同図面<2>地点付近以後、同図面<4>地点までの間は後方を確認しなかった。)、急ブレーキをかけたが間に合わず、同図面<×>地点で被告車両の右前ドア付近と隆明車両の正面とが衝突した(右衝突時における被告車両の位置は同図面<5>地点、隆明車両の位置は同図面<ウ>地点である。)。衝突後、隆明は、隆明車両から投げ出され被告車両のフロントガラス前を飛んで衝突地点から約七・八メートル離れた同図面<オ>地点に転倒し、隆明車両は同図面<エ>地点に転倒した。被告車両は同図面<6>地点に停車した。

なお、被告は、本件事故前にも、駐車違反五回、速度違反、信号無視、指定場所不停止、ベルト装着義務違反を犯しており、平成九年一月七日には三〇日間の免許停止となった。

以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、本件事故は、被告が、後方から走行してきた隆明車両を認めながら距離が十分にあるから先にUターンできるものと軽信し、予め方向指示器を点けることなく、また、隆明車両の動静に対する注視を著しく怠ったままUターンを行った過失のために起きたものであると認められる。なお、隆明にも、制限速度時速四〇キロメートルのところを時速七〇キロメートル程度の速度で進行していたという落ち度が認められるが、本件事故現場で転回を行う際には後方に対する注意が行き届かないことになりかねず、被告の隆明車両の動静に対する注視義務違反も著しいものであること、被告は転回の合図を行っていないことといった被告の過失の内容及び程度と対比すると、過失相殺を行わなければ公平を失するものとはいえない。

二  争点2について(損害額)

1  隆明の損害

(一) 隆明の逸失利益 五五〇九万一四一二円

(1) 大学卒業後の逸失利益(五五〇九万一四一二円)

証拠(甲二、四五)及び弁論の全趣旨によれば、隆明(昭和五一年二月二九日生)は、本件事故当時、二一歳の大学三回生(男子)であったことが認められる。

また、隆明の年齢に照らすと、本件事故に遭わなければ、二年後から四四年間は稼働することができたものと認められる。

そこで、平成九年賃金センサス産業計・企業規模計・大卒男子労働者(全年齢平均)の平均年収である六八七万七四〇〇円を基礎とし、当時の家族構成及び生活状況に照らし、生活費控除率を五割として、ライプニッツ式計算法により、民事法定利率の趣旨を斟酌して年五分の割合による中間利息を控除し、右稼働期間内の逸失利益の現価を算出すると、次の計算式のとおりとなる。

(計算式)6,877,400×(1-0.5)×(17.880-1.859)=55,091,412(一円未満切捨て)

(2) アルバイトの逸失利益(認められない。)

アルバイト料の逸失利益が生じたことを認めるに足りる証拠はない。

(二) 隆明の死亡慰謝料 一三〇〇万円

本件事故の態様、隆明の年齢、原告らは別途固有の慰謝料を請求していることその他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、隆明の死亡慰謝料としては、一三〇〇万円とするのが相当である。

(三) 合計

以上の合計は、六八〇九万一四一二円となる。これを原告隆吉及び同千代子が各二分の一の割合(各三四〇四万五七〇六円)で承継した計算になる。

2  原告隆吉及び同千代子の損害

(一) 文書料 一万四二五〇円

原告隆吉及び同千代子は、文書料として標記金額を要したものと認められる(甲一五1ないし4)。

(二) 入院雑費 一三〇〇円

原告隆吉及び同千代子は、本件事故と相当因果関係にある入院雑費として標記金額を要したものと認められる(弁論の全趣旨)。

(三) 通院交通費 二万一七八〇円

原告隆吉及び同千代子は、通院交通費として標記金額を要したものと認められる(甲一五1、一六)。

(四) 葬儀関係費 一二〇万円

葬儀費用は、標記金額の限度で本件事故と相当因果関係にあると認められる。

(五) 物損(隆明車両) 三〇万円

隆明車両の車両損害として標記金額の損害を被ったものと認められる(甲一九、弁論の全趣旨)。

(六) 小計1

以上の合計は、一五三万七三三〇円となる。これを原告隆吉及び同千代子が各二分の一の割合(各七六万八六六五円)で取得した計算になる。

(七) 固有の慰謝料

(1) 原告隆吉 四〇〇万円

本件事故の態様、隆明の年齢、隆明と原告隆吉との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告隆吉固有の慰謝料としては、四〇〇万円とするのが相当である。

(2) 原告千代子 四〇〇万円

本件事故の態様、隆明の年齢、隆明と原告千代子との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告千代子固有の慰謝料としては、四〇〇万円とするのが相当である。

(八) 小計2

(六)の金額に(七)の金額を加算すると、原告隆吉及び同千代子につき、各四七六万八六六五円となる。

(九) 自賠責保険金についての確定遅延損害金 一七〇万一三六九円

本件事故日は平成九年一二月一九日であるところ、原告隆吉及び同千代子主張の自賠責保険金(三〇〇〇万円)は平成一一年二月五日に支払われたから(甲二〇)、三〇〇〇万円につき、四一四日間分の確定遅延損害金(年五分の割合)は標記金額(一円未満切捨て)となる。これを原告隆吉及び同千代子が各二分の一の割合(各八五万〇六八四円、一円未満切捨て)で取得した計算になる。

(一〇) 小計3

(八)の金額に(九)の金額を加算すると、原告隆吉及び同千代子につき、各五六一万九三四九円となる。

3  原告隆吉及び同千代子の損害額(損害の填補分控除後)

以上によれば、原告隆吉及び同千代子は、隆明の損害につき各三四〇四万五七〇六円を承継し、固有の損害につき各五六一万九三四九円を取得しているので、これを合算すると、原告隆吉及び同千代子は、各三九六六万五〇五五円となる。

原告隆吉及び同千代子は、本件事故に関し、平成一一年二月五日、自賠責保険金から、三〇〇一万四七六〇円(各一五〇〇万七三八〇円)の支払を受けているから、これを前記損害額から控除すると、原告隆吉及び同千代子の残額は各二四六五万七六七五円となる。

4  原告隆吉及び同千代子の損害額(弁護士費用加算後)

(一) 弁護士費用 各二五〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、被告に負担させるべき原告隆吉及び同千代子の弁護士費用は各標記金額をもって相当と認める。

(二) 合計

よって、原告隆吉及び同千代子につき、弁護士費用加算後の損害額は、各二七一五万七六七五円となる。

5  原告幸子の損害

(一) 固有の慰謝料 一〇〇万円

本件事故の態様、隆明の年齢、隆明と原告幸子との関係その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、原告幸子固有の慰謝料としては、一〇〇万円とするのが相当である。

(二) 弁護士費用 一〇万円

本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、被告に負担させるべき原告幸子の弁護士費用は標記金額をもって相当と認める。

(三) 合計

よって、原告幸子につき、弁護士費用加算後の損害額は、一一〇万円となる。

6  まとめ

原告隆吉の損害賠償請求権の金額は二七一五万七六七五円(確定遅延損害金の同原告分八五万〇六八四円を除くと二六三〇万六九九一円)、同千代子の損害賠償請求権の金額も二七一五万七六七五円(確定遅延損害金の同原告分八五万〇六八四円を除くと二六三〇万六九九一円)、同幸子の損害賠償請求権の金額は一一〇万円となる。

三  結論

以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口浩司)

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